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魚介類の食中毒
  ビタミンとは
 「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」とは江戸時代の俳人である山口素堂の一句。この句で詠まれているカツオは夏が旬の魚です。一方で、気温が高くなる夏場は、生鮮食品を常温で置いているとすぐに傷み、食あたりを起こしやすい季節です。そこで今回は、魚介類の鮮度と腐敗により起こる食中毒について取り上げます。
 
魚介類の鮮度
 魚介類は食肉に比べ組織がもろいことから、自己消化酵素によるたんぱく質の分解もはやく、微生物によって分解されやすい食材です。エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸など、不飽和脂肪酸の含有量が多いことから脂肪酸の酸化により変質しやすいともいえます。その上、刺身や寿司などにして生食することも多いため、鮮度が求められます。
 魚介類の鮮度を推し量る指標として、K値が利用されます。これは魚類の組織分解とともに変化するATP関連物質全体に占めるイノシンとヒポキサンチンの量を示したものであり、一般に低ければ鮮度が良いととらえられています。
 
魚介類の腐敗
 海洋に生息する魚介類では、腐敗が進むと海水由来の微生物の増殖によりアンモニアやトリメチルアミン、メルカプタン類などの不快臭を有する物質が多く生成されてしまいます。魚介類の腐敗を評価する指標としては、揮発性塩基窒素量(VBN)がよく使われています。これはアンモニアやジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアルカリ性窒素化合物を測定するもので、これらが100g中30mg以上で初期腐敗とみなされます。また、単にpHを測定するのも有効とされます。これは腐敗の進行とともにpHが変化するためです。
 
腸炎ビブリオ
 魚介類の腐敗による食中毒の事例として、最も多いのが腸炎ビブリオによるものです。腸炎ビブリオは3%の食塩濃度で最もよく発育するグラム陰性嫌気性桿菌で、下痢を伴う激しい腹痛を引き起こします。海水では20℃以上で増殖し、食中毒の事例も6月から9月の夏場に集中しています。真水では発育できず熱にも弱いため、魚介類を調理前に水道水で洗いしっかり加熱する、また、刺身にする際には短時間でも低温で保存するなどの対策で、食中毒を予防できます。
 
ヒスタミン
 カツオやサバ、マグロなどの赤身の魚は筋肉中に遊離ヒスチジンを多く含み、死後微生物の作用によりヒスタミンに変化し蓄積されます。とくにサバはヒスタミンが生成されやすく、先の脂肪酸の酸化による変質も相まって「生き腐れ」と呼ばれるほどです。ヒスタミンが高濃度に蓄積したものを食べてしまうと、食後1時間ほどでじんましんや頭痛、顔の紅潮などのアレルギー様の食中毒症状に見舞われます。
 ヒスタミンは加熱調理しても分解されないため、増加させないことが肝要になります。厄介なことにヒスタミン産生菌には低温細菌も含まれ、冷蔵庫で保存していてもヒスタミンの増加が確認されています。ヒスタミンを増やさないために、魚介類は冷凍保存し、解凍は常温ですることなく解凍後はすぐに消費するようにしましょう。
 




こらぼ2021年夏号より抜粋