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生食用牡蠣
   季節も冬になりスーパーの鮮魚売り場などで牡蠣を見かけるようになりました。売り場に置かれている牡蠣は生食用と加熱用に分けて販売されていますが、これらの違いについてご存知でしょうか。
 
生食用牡蠣の成分規格、加工基準
 牡蠣は食品衛生法7条1項及び10条の規定に基づく厚生労働省の告示である「食品、添加物等の規格基準D各条」において、牡蠣を生食用として販売するための条件として成分規格と加工基準が設けられており、これらの基準を満たした牡蠣が生食用として売り場に出され消費者に提供されています。
 まず、牡蠣の成分規格ですが、
 (1)細菌数は検体1gにつき5万以下であること
 (2)E.coli最確数※1が検体100gにつき230以下であること
 (3)腸炎ビブリオ最確数は検体1gにつき100以下であること
以上3つの基準値に加えて、検査方法まで細かく定められています。
 
 生食用牡蠣の加工基準については、原料となる牡蠣が海水100mLあたり大腸菌群最確数が70以下の海域で採取されたものであるか、それ以外の海域で採取されたものを(1)~(3)と同等の海水もしくは塩分濃度3%の人工海水を用いて浄化したものでなければなりません。また、貯蔵方法や水揚げ後の取扱い、加工に用いる水や器具などについても、基準が定められています。これらの規格基準は牡蠣の生息域や二枚貝特有の性質が関係しています。
 
牡蠣を食品として扱う際の注意点
 牡蠣は河口水域、もしくは干潮域に生息しています。牡蠣自身が消化管に高レベルの細菌を有するフィルターフィーダー(濾過摂食者)※2であることから、人間の生活排水に由来する細菌に汚染されやすいという特徴があります。
 
 また、牡蠣は他の二枚貝類とは異なり、筋肉部分だけでなく内臓も生で食べる習慣があることも食中毒のリスクを高めています。かつては腸チフスやサルモネラ、赤痢菌のような下水由来の細菌感染症が発生していましたが、現在では下水処理法が改善されたことに加えて、ヒトの排出物に汚染されているかどうかを効果的に監視できるようになったため、先進国ではあまり見られなくなりました。しかし、漁業禁止区域から不法に採取した汚染貝類による感染症は報告されており、日本でも2001~2002年に生牡蠣を原因とする細菌性赤痢が発生しています。
 
 先に述べたように牡蠣は体内に細菌やウイルスを蓄積しやすい性質があり、組織中の細菌数は1gあたり1万~100万と幅があるものの高い値を示しています。腐敗や変敗を起こすと細菌数は1000万以上に増加し、シュードモナス属菌およびビブリオ属菌などが増加します。
 
 このように体内の細菌数が多い牡蠣が死ぬことで免疫システムが働かなくなり、腐敗や変敗が急速に進みます。しかし、採取から加工工程で適切な処置を施すことで、ある程度細菌の増殖を抑えることが可能です。生食用牡蠣は10℃以下、生食用の冷凍牡蠣はマイナス15℃以下で保存することが義務づけられています。
 
 細菌の増殖を抑える方法として最もよく使われている方法は、浄化と移植です。浄化とは、きれいな海水が与えられると汚染物質を除去しようとする貝類本来の性質に頼るもので、人工的な浄化水域に24~48時間という比較的短時間入れる方法です。また、移植は貝類を綺麗な自然海水の新しい貝床に移し、最大数週間そこに置いてから再度採取する方法です。これらの方法は腸内細菌科の細菌をほとんど除去もしくは低減するのに効果的ですが、ウイルスや毒素には効果がありません。V.choleraeV.vulnificusのようなビブリオ属菌にも効果がありませんが、保存温度を下げることで増殖を低下させることができます。
 
 このように生食する際の食中毒リスクが高い牡蠣ですが、さまざまな方法で細菌数を抑える工夫がなされており、安全性を高めた上で私たち消費者に提供されています。
 
 ※1:大腸菌群数、糞便系大腸菌群数、食中毒起因菌を測定する場合に用いられる検査法
 ※2:こし取るようにして餌をとる動物のこと

 


こらぼ2020年冬号より抜粋