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食の「旬」について
 今回は「旬」について考えてみます。日本は四方を海に囲まれており自然が豊かであるだけでなく、春夏秋冬と季節ごとに収穫される食材も豊富です。古来より日本人は食材に対し、深い知識と理解をもっていました。その時々で旬のものを頂くということは、私たちの舌だけでなく、体や心も豊かにしてくれるのではないでしょうか。

 ところで、旬とは具体的にどういった状態を表すのでしょう?

 旬という言葉には少々異なった3つの意味が含まれています。まず、初鰹や早春の筍のように季節を先取りする「はしり」と呼ばれるもの。次に、魚などが産卵などのために沿岸に接岸するため、収穫量がピークにあたるもの。この2つの意味で使われるときは、味や栄養状態が必ずしもその食材の最高の状態にあるとは限りません。例えば、マダイは産卵で接岸する春に桜鯛としてよく出回ります。そのため、春がマダイの旬ともいわれますが、卵巣に養分をとられているためにあまり肉質が良いとはいえません。それよりも、脂肪を蓄える秋から冬にかけてが、味や栄養状態ともに最高といえます。農作物では、サツマイモのように収穫直後よりも一定期間貯蔵してからの方がデンプンの糖化が進み美味しくなるものもあります。3つ目は、餌や養分、日光を十分取り込み栄養をしっかり蓄え、その食材が最もおいしい状態にあるものをいいます。一般的に旬といわれるものは、この状態のことです。

 さて、一昔前と比べて、旬の食材の出回る時期がずれてきているということをご存知ですか?

 サヨリの2年魚で30cmを超えるものはカンヌキとよばれ、昔は11月に入ると身が締まって甘味のある旬のものが寿司ネタとして入荷されていましたが、最近では12月に入っても肉質が良化せず、場合によると年を越してようやく旬ものとして店で扱えるようになるのものあるとのことです。

 また、5月のゴールデンウィークを過ぎたあたりから産卵するはずの玄界灘のイサキも、6月を過ぎてもまだお腹に卵を持っていることがあるそうです。

 なぜこのようなことが起きるのでしょうか? 漁師や各大学での研究者たちの見解では、地球温暖化が関係しているのではないかということです。実際にこの100年で世界の平均気温は0.74℃(あるいはそれ以上)高くなったといわれています。人間でも体温が1℃上がると寝込んでしまいますが、衣服を着ない自然界の生物にとって、この温度差は人間が感じる以上に大きな変化となっているようです。水中に棲み、変温動物である魚にとっては、顕著に影響が出て、これにより旬の時期にずれが生じていると考えられます。

 ここ最近の魚の旬と一昔前の旬を比べてみると、サヨリ、マダイ、ヒラメなどの冬に旬を迎える魚は、旬の入りが遅れ期間が短くなっており、逆にマコガレイやアナゴなどの夏の魚は海水温が高いため、旬が長くなる傾向が見られます。温暖化の影響で食材の旬がずれることは非常に大きな問題ではあります。しかし、旬のものを食するということからいえば、時期がずれたとしてもそれを受け入れ、その食材が一番おいしい時期を見極めることで新たな発見があるかもしれません。

 一昔前の旬と現在の旬を比べることで、環境問題も考えてみてはいかがでしょうか?


こらぼ2012年秋号より抜粋