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フッ素の性質(井戸水について-2)
◆フッ素とは?
 以前、井戸水と細菌について触れましたが、今回は井戸水中に含まれる「フッ素」について紹介します。

 フッ素と聞くと皆さん何を思い浮かべますか?テレビCMでよく耳にする歯磨き粉や虫歯予防が頭をよぎるのではないでしょうか。スーパーなどにはそのような商品が多く出回っており、虫歯予防に効果があります。

 フッ素はミネラルの一種であり、通常NaF、CaF2などとして存在し、歯質の強化、虫歯原因菌の活性を阻害し、その結果、虫歯の発生を抑制します。もともとフッ素は化合物として、自然界のあらゆるところに存在します。そのため、通常の使用では有害性はありません。また、フッ素(F)は、カルシウム(Ca)や鉄(Fe)、炭素(C)、酸素(O)などと同じく元素の1つです。

 元素は地球上に約100種類ほどありますが、その中でもフッ素は多い方で、1kg当たりに対して、土壌中には200〜300ppm、海洋中には1.3ppmで14番目に多い元素となっています。当然ながら、そこからとれる野菜、果物、魚介類などには自然に含まれています。その他、肉やお茶、塩、ビールなど、あらゆる飲食物がフッ化物を含んでおり、それらを食べたり飲んだりしている私たちの身体の中にもフッ化物は取り込まれ、体の構成要素にもなっています。つまり、私たちが使用している井戸水も自然由来のものなので、含んでいる可能性は十分にあります。水道法では飲料水の基準は0.8mg/L(0.8ppm) 以下となっています。
 
  表.自然界に含まれているフッ素(単位:ppm)
 
ジャガイモ 0.8〜2.8
大根 0.7〜1.9
にんじん 0.5
りんご 0.2〜0.8
みかん 0.1〜0.3
エビ 4.9
イワシ 8.0〜19.2
1.5〜1.7
海藻 2.3〜14.3
牛肉 2.0
砂糖 1.7〜5.6
25.9
みそ 0.9〜11.7
紅茶 0.5〜0.7
緑茶(抽出液) 0.1〜0.7
ビール 0.8
1.3
土壌中 200〜300
0.1〜0.2
   
  ppmとは100万分の1の割合を示す単位。
1kgに1mgのフッ素が含まれている場合、フッ素濃度1ppmとなります。
 
◆人体への効果と影響
 前述したように自然界に広く分布し、虫歯予防にも役立つフッ素ですが、私たちの人体にはどのような効果・影響をもたらしているのでしょう。歯に焦点を当てて説明します。

1.虫歯菌のはたらきを抑制
 虫歯菌の酵素(エノラーゼ、フォスフォグリセロムターゼ)のはたらきを抑制して、歯を溶かす酸を作らないようにします。また、虫歯菌の栄養となる糖の取り込みを邪魔して、菌が歯にくっつきやすくするための「ネバネバ」する物質を作るのを抑えます。

2.酸に負けないために歯質強化
 歯の表面を構成するハイドロキシアパタイトから歯を溶かす酸に強いフルオロアパタイトを作りエナメル質をかたく丈夫にします。歯のエナメル質結晶の弱い箇所を修復し、より強固な結晶を作ります。

3.再石灰化
 唾液中のカルシウムイオンやリン酸イオンと共に虫歯菌の出す酸で溶けかかった歯(脱灰)の表面に沈着し、それによって歯の表面を修復します。

 このように、よいことづくめのように聞こえますが、過剰に摂取すると下痢、嘔吐、痙攣、呼吸困難を起こす場合があります。また、生まれてから7歳くらいまで(永久歯の石灰化の時期)の間、過剰に体内にフッ素を摂取し続けた場合、永久歯に斑状歯というフッ素症が現れることがあります。いいものだからといって多く使用すると逆に悪影響を及ぼします。日常的に摂取できるものなので、欠乏症になるということは極めて稀なことです。

 歯のフッ素症や骨フッ素症などの慢性の副作用を生じることのない1日の許容摂取上限値は、1〜3歳で1.3mg、4〜8歳で2.2mg、9歳以上で10mgです。また、副作用を生じることなく最大の虫歯予防を発揮するフッ化物の適正摂取量は体重1kgあたり1日に0.05mgとなっています。1日の摂取量の上限値は成人で10mgとなっています。日本人では食品による1日のフッ化物摂取量が0.4〜1.8mgとされていますから、例えば、0.8ppmに調整された水道水、またはその付近の値を含む井戸水を1日1.5リットル飲んでもフッ化物の総摂取量は1.6〜3.0mgとなり、他の飲食物からの摂取量に多少の誤差があっても上限値を超えるものではないので問題はありません。正しい使用方法・使用量を知ることこそ大切です。

 どのような事柄に関してもですが「過ぎたるは及ばざるが如し」ではないでしょうか。



こらぼ2015年秋号より抜粋